* * トロイメライ * *

「トロイメライ」です。このアルバムが発売されたのは2002年の9月。現在の4人編成になってから最初に発売されたアルバムです。このアルバムを聴いて最初に思ったのは、音楽性の変化です。どのアーティストもそうですが、音楽は変化していきます。Plastic Treeの場合も例外ではありません。前のアルバム「パレード」は多少の変化はあったものの、「パペットショウ」からの流れを汲んだ作品だと思います。歌詞の内容もまだ幻想的であり物語的であり、昔の世界観を表しています。しかしこの「トロイメライ」は明確に違います。このアルバムに見える風景は現実。プラトゥリ的な色彩を加えられていながらも、紛れももない現実。それは「グライダー」に出てくるカルピスだったり携帯という言葉であったり、千葉市の若葉区であったりプラットホームであったり、どことも知れぬ場所ではありません。

また歌詞と共に、太朗さんの声も変化しました。これはおそらく喉の手術というのが一番の原因かと思いますが、最初にアルバムを聴いた時は「声が随分変わったな」と感じました。以前の太朗さんのヴォーカルはもっと湿った感じの声で、それは「気持ち悪い」と言われかねないかなり癖の強い声でした。今はもう少しドライな感じ。相変わらず癖はあるかとは思いますが、昔よりは聴きやすい感じになったかと思います。思えば私が最初に「トレモロ」を聴いた時、失礼ながら「声がキモッ!」と思って速攻CDを封印したものでした。今じゃこんなコンテンツ作ってるほど気に入ってますけど…。すっかり太朗さんの声に慣れて逆に好きになった今となっては昔のあの気持ち悪い声もよくて逆に聴いてみたかったなと思ったりするのですが、今となってはもう不可能なことですね。残念です。

音楽的には初期の要素が薄れ、世界観が明らかに変化していますが、このアルバムは大変素晴らしいアルバムです。何よりも、収録されている曲の一つ一つのクオリティが高い。

アルバムタイトルとなっている「トロイメライ」はシューマンの子供の情景を思い起こさせます。また「トロイメライ」という言葉には「夢みがち」という意味があります。夢見がちという言葉ほど甘さのあるアルバムではなく、もっと切れ味が鋭く、。しかしこの言葉は大変象徴的です。写真館ゼラチンの素晴らしいジャケット写真と相まって豊かなイメージを心に呼び起こします。大好きなアルバムです。「理科室」から「グライダー」へと流れ、シングル曲が続いた後は濃厚な色彩、さらに後半では尖ったサウンドを響かせ最後はしめやかに感動的に終わっていく、聞き飽きないアルバムです。それではひとつずつ曲を見ていくことにしましょう。

* * 理科室 * * 作詞:有村竜太朗 作曲:長谷川正 編曲:Plastic Tree
お気に入りの一曲。理科室からグランドを眺める描写からはじまり「こんな僕を燃やすだけの火をください」のラストまで、歌詞がとても好きです。歌詞的には最初や最後の部分の方がよいと思うのに、なぜか言葉は平凡なサビの部分に心を掴まれました。「不安で、不安で、考えるのも嫌だ」「答えなんかいらない!」と吐き出している部分などが特に。自閉的、自虐的な歌詞はプラの初期からの要素でありますが、この曲では「一人ぼっちで呟いているのではなく、回路は「君の心」へ向かって開かれてつつあるのが感じられます。途中に出てくる「愛」という言葉も以前ならなんだか歌詞ばかり取り上げてしまいましたが、バンドの音としても好きです。一時期この曲ばかり聴いて暮らしていたこともあり、個人的にも思い入れが深い曲です。大好き。音の作りは非常にシンプル。飾りや小細工なしで、シンプルなバンドの音が出ている曲。このシンプルな音が、逆に曲の持ち味を引き立てていてとても気に入っている。名曲が多いこのアルバムの中でも、私が一番思い入れが深くて好きな曲です。弱さと脆さと、目を背けたくなる自虐さと、それでも誰かに手を伸ばさずにいられない気持ち。自分の中の弱さまでも愛おしく思える、そんな曲です。粉のような儚さ。どこか乾いた手触りが感じられるバンドの音もヴォーカルも、歌詞を際立たせ、。歌詞は自虐的で自閉的だが、回路は完全に閉ざされているわけではない。

* * グライダー * * 作詞:有村竜太朗 作曲:ナカヤマアキラ 編曲:Plastic Tree
滑走感のあるメロディーが爽やかな一曲。このアキラさんのメロディーは抜群です。メロディーとカルピス等歌詞などから勝手に爽やかなイメージを持っていたのですが、よくよく歌詞を読んでみると「錯覚はすぐに醒めるけど」や「変な夢、見ては自嘲ぎみ。笑う、笑う、笑う。」等、意外に太郎節満載でしたグライダーの浮遊感を醸し出す全体的な音の軽さが限りなく心地いい。この曲のドラムは文句なしに格好いいのですが、ブッチ君は緊急入院して退院した次の日に叩いたとかでレコーディングはかなり大変だったとか。この曲の音はブッチ君が入ったからこそだと思います。聴いていると、ふと心地よい目眩を感じることがあります。ソーダの泡がはじけるような不思議に明るい自己嫌悪。青空の中に落ちていく、僕はグライダー。

* * 蒼い鳥 * * 作詞:有村竜太朗 作曲:有村竜太朗 編曲:Plastic Tree
シングル曲です。 全体的にシングルより暖かみのある音に仕上がっていると思います。シングルの硬質なアコギの音が好き。

* * 散リユク僕ラ * * 作詞:有村竜太郎 作曲:ナカヤマアキラ 編曲:Plastic Tree
これもシングル曲。蒼い鳥同様アレンジが変わっているのですが、これはシングルアレンジの方が私は好きです。アルバムバージョンは音をいじり過ぎで好みじゃない。シングルバージョンの方が吐き出している感じがします。

* * ペットショップ * * 作詞:有村竜太朗 作曲:長谷川正 編曲:Plastic Tree
濃厚な色彩を感じる曲です。初期の頃から太朗さんの歌詞には動物がよく出てきていますが、どちらかというと幻想的であったり物語的だったりしました。でもここで歌われているのは現実の風景、ペットショップです。粘りつくような音と歌がよいです。どっしりしたリズム隊共々。UK色というか洋楽っぽ曲かも。

* * 懺悔は浴室で * * 作詞:長谷川正 作曲:ナカヤマキラ 編曲:Plastic Tree
これもまた濃い曲です。このどことなく籠ったような音や密室感はhide and seekの世界に近いものがあるように思いました。この曲はアレンジもとても好きです。打ち込みというか機械っぽい音が格好いいです。この曲全体にある淀んだ水のような暗さがとても心地よく感じます。これは歌詞というより音の作り出す世界に惹き込まれているように思います。とても好きです。

* * 赤い靴 * * 作詞:竜太朗 作曲:Akira 編曲:Plastic Tree
長い前置きで言いたいことはだいたい書いてしまいましたのでそちらを読んでいただければと思います。言及するとすれば、この曲は初めてのアキラさん作曲のシングルということでしょうか。この時期から、アキラさんは堰を切ったように作曲をはじめています。

* * ガーベラ * * 作詞:竜太朗 作曲:Akira 編曲:Plastic Tree
長い前置きで言いたいことはだいたい書いてしまいましたのでそちらを読んでいただければと思います。言及するとすれば、この曲は初めてのアキラさん作曲のシングルということでしょうか。この時期から、アキラさんは堰を切ったように作曲をはじめています。

* * 千葉市、若葉区、6時30分 * * 作詞:有村竜太朗 作曲:長谷川正 編曲:Plastic Tree
まるでカメラのシャッターを切るように、帰り道の風景を短いフレーズで切り取っただけの歌詞が面白い曲。エフェクトをかけたヴォイスと相まって、汚染されたような神経症的な風景描写が秀逸。単語を並べただけの歌詞ともいえるのに、面白いなあと気に入っています。高校生頃の太朗さんの心象風景なのかな?神経がトゲトゲするような、そんな凶暴な感じがよいです。ギスギスしてヒリヒリした音がたまらないです。

* * プラットホーム * * 作詞:有村竜太朗 作曲:ナカヤマアキラ 編曲:Plastic Tree・NARASAKI
これは「散リユク僕ラ」のカップリングなのですが、アルバムに収録されるにあたってアレンジが変更されています。アレンジとしてはこのアルバムバージョンの方がずっと好きです。無機的で衛生的な雰囲気のあるプラットホームにはこのくらいの軽い音の方があっていると思います。シロクロニクルの秘密のカーニバルもナラサキさんがアレンジで参加しているのですが、私はそれもすごく好きなんです。これはクレジットが共同になっていますが、8割くらいはナラサキさんだとインタビューにありました。

* * Hello * * 作詞:有村竜太朗 作曲:ナカヤマキラ 編曲:Plastic Tree・西脇辰弥
ラストをバラード曲で締めるというのはよくあると思うのですが、最後の2曲が共にバラードというのは珍しいパターンだと思います。なんていうか、やさしい曲だなあと思う。メロディー的にはきれいなんだけど、地味にアキラさんのギターが目立ってます。

* * 雨ニ唄エバ * * 作詞:有村竜太朗 作曲:ナカヤマキラ 編曲:Plastic Tree・西脇辰弥
アルバム最後の曲が非常に好きなことが多いです。雨に濡れそぼった心をそっと包んでくれるような、冷たさとやさしさの入り交じった曲。ライヴ映像で太朗さんが傘を持って歌っているのを見たのですが、よかったなあ。ライヴで聴いてみたい曲の一つです。雨も、言葉も音も、やさしく雨に溶けて、心の中を流れていく。この曲で「トロイメライ」が終わるのが非常にうれしい。すべてがしっとりと雨に濡れ、霞み、静かに終わっていきます。

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