9月16日

銀座のHOUSE OF SHISEIDOにて「セルジュ・ルタンス 無限の旅の記録」を見る。漆黒で彩られた空間には、20年間に渡る資生堂のイメージクリエーターとしての仕事が展示されていた。セルジュ・ルタンスの黒は闇ではなく、最もノーブルな色としての「黒」。エゴイスティックなほど、美意識の塊。「煙、ヴェール、砂、石…。それでも常に女性! セルジュ・ルタンス」。展示の中に山口小夜子の写真があり、『小夜子の魅力学』(文化出版局)にルタンスとのエピソードが載っていたことをふと思い出し家に帰ってから本をめくってみる。この本は昔古本屋でバイトをしていた頃、その店で買ったものだ。私の好きなものは、昔と何一つ変わっていない。

女性にとって資生堂とはどんな存在なのだろう。私自身は資生堂ブランドの化粧品とはなぜか無縁で、名前は知っていても縁遠い存在だ。でもその中で唯一好んで使っているのがフレグランスで、それがセルジュ・ルタンスのものである。セルジュ・ルタンスの詩的な香りは大好きで、気がつくと手元にかなり集まっていた。でも量り売りで買ったものが大半だ。大人の色香な香りが多いので、香りとしては芸術品と思いつつ小娘の私には使いこなせない。フルボトルを使いもせず劣化させるのはもったいないので、今の自分には量り売りで十分だと思っている。そんな中で、今の私でも使えると思ってボトルを所有していたり実際によく使用しているのは次の四つ。

・クレールドゥムスク(透明なムスク)…ホワイトムスクの香りがまるで上質な石鹸のよう。ルタンスの香りの中ではかなりアクの少ない、使いやすいものだと思う(たぶんディープなファンには物足りない香り)。心地よく眠くなる香りで、すっかり「眠る時専用」フレグランスと化している。贅沢かもしれないけど、こういう無駄な贅沢は結構好き。

・アンボワバニール(バニラの樹)…バタースコッチのような、濃厚なバニラの香り。最高のピュアバニラ。おいしそう…。夏は全く使う気が起きないが、空気のキンと冷えた秋冬に身に纏うと最高にうれしい気分になる。バニラなのだけど、お子様向けではない。私の中でバニラといえばこれ。

・ラハトルクーム(トルコの甘いお菓子)…トルコの甘いお菓子とあるが、香りは杏仁豆腐に似ている。こちらもアンボワバニール同様、グルマン系の香り。夏でも量を控えめにして使うことがある。私の服の系統で言えばジェーンよりロイスクレヨンに似合う香りだと思う。これもおいしそう。

・アイリスシルバーミスト…最近購入したもの。「アイリス」「シルバー」「ミスト」というこのネーミングだけで、もう憧れていた。やや金属的なアイリスの香りで、特にトップノートの癖が強い。だがだんだんと空気感のあるなんとも言えない香りに変化する。サラサラと、銀の粉がこぼれるような余韻のあるラストノートが素敵。硬質で、静かに煌めいて、すごく私好みの香り。でも「素直によい香り」というわけではないので、万人にはお勧めできないかも。もう少し手懐けて、日常用として上手く使いこなせるようにしたい。

香りとの出会いは子供の頃母親の鏡台で…という人が多いのかもしれないけど、私はそんなロマンチックな子供ではなく、興味を持ったきっかけはミイラだった。肉体に塗る香油、没薬。これが私の原点。そのためか、なんだか今でも変な香りを好きになることが多い。


9月17日

Lois CRAYONへ寄り、秋冬のストーリーブックを頂いてきました。天使の羽根を象った白い栞が挟み込まれているカタログは、素敵な秋色。ヴィクトリアンは以前からロイスの持ち味で、でも今年のような大流行を見せている時でも過剰にそのテイストを出すこともなく、相変わらずな店内がとても好ましいものに思えました。入荷したばかりだという品物をいろいろと見せていただいて、秋のロイステイストにうっとり。この日は、素敵なベルトとの出会いがありました。

高田里恵子『グロテスクな教養』(ちくま新書)を読了。『文学部をめぐる病い』を読んだ時から「いろいろな意味でタダ者ではない…」とは思っていたけど、やはりやってくれました。期待を裏切らない素晴らしさ。意地悪でいやらしくも鋭く分析するその手腕には舌を巻かずにはいられない(自分がやられたらたまらないが)。すごいよ、この人。この本については後日また取り上げます。まあこれ、一部の人(たぶん男性)にとってはたまらなくムカツク本だろうな。


9月18日

昨日はキルシェのライヴでした。いつもキルシェのライヴってまともな感想を書かないのだけど、毎度おなじみのサポートメンバーを含めた、楽しいステージが私は大好きで。これからもまた、ふらふらっと出かけようと思っています。新曲「砂のレース」を聴くことができてうれしかったです。

ライヴ会場へ行くのに池袋で乗り継ぎをする必要があったので、少し早めに家を出て久しぶりに池袋のリブロを覗いてきました。やっぱりここが好き…。ただ覗くだけなはずがついうっかり本を買い込んでしまい、重い紙袋を提げてライヴへ参戦する羽目に。購入した本は以下の三冊。

堀江敏幸『もののはずみ』(角川書店)…出版は7月だったのね。堀江信者(笑)なのに、新刊が発売されたことにも気がつかず今まで買っていなかったなんて、なんたる不覚。さっそく読んでみたが、この本は要するに「買物エッセイ」なので、おそらく従来の堀江敏幸の濃密な文章が好きな人には薄すぎて期待はずれなのではないだろうか。私自身も多少物足りない気持ちは感じたが、しかし堀江敏幸同様ガラクタを買うのが大好きなので、なんというかこの中で語られていることは他人事とは思えない。この本の主役は文章ではなく、あくまで「モノ」。「また、買ってしまいました。」と言いつつモノとの出会いの喜びを隠しきれない人が、私は好きだ。

美輪明宏『美輪明宏のおしゃれ図鑑』(集英社)…店頭に積んであって遠くから「なんてかわいい本なのだろう」と思って近づいてみれば、この本だった。迷わずお買い上げ。美輪明宏とフジ子・ヘミングの対談は見物だと思う。美輪明宏の方がいろいろと気を配っている感じで、フジ子・ヘミングの大物っぷりが伺える。きれいなもの、かわいいもの、そしてモノとは別次元の精神性が好きです。私は、私の好きな世界を極めたいと思います。それはつまり、自分の感覚に正直になるということです。多数の人からあまたの影響は受けていますが、結局私は私でしかなく、自分の好きな世界を一番知っているのは己自身です。

荒俣宏訳 ハリー・クラーク絵『アンデルセン童話集』(新書館)…こんな本が出版されたとは知らず、見つけた瞬間固まってしまった。今年はアンデルセン生誕200年で、作品を読み直したいなあと思いつつ文庫ではなかなか食指が動かず、ずっと買い渋っていた。これを見つけた瞬間「そうか、私はこれに出会うためにずっと待っていたんだ」と今までの自分の怠慢を棚に上げ、思いっきり自己正当化してみた。箱入りの重厚な造り、ハリー・クラークの美しい挿絵入りの本なのにお値段は3800円。間違いなく5000円はすると思っておそるおそる本をひっくり返して値段を確かめたのに、拍子抜けするほどお手頃価格で迷わず購入を決意。これからしばらくは、部屋でゆっくりアンデルセンに浸りたいと思います。

私がこの本に惹かれたきっかけは箱の一枚の絵なのだが、なんとも北欧的な雰囲気ながら重厚な色彩のその作品は「ステンドグラスみたい」というのが第一印象だった。家に帰ってきてから解説を読むと経歴に「ステンドグラス職人」とあり、やっぱりなあと思う。この色彩感覚は、ステンドグラスを通じて磨かれたもので間違いなかったのだ。ハリー・クラークの絵を見ていると、ふとカイ・ニールセンのことを思い出した。内田善美を通じて知ったニールセン。そろそろ、『星の時計のLiddell』を読み直す季節が巡ってきた。


9月19日

セルゲイ・パラジャーノフ『ざくろの色』を見終わる。一度見ただけでは全然足りなくて。これから何度も何度も見直すであろう作品。18世紀のアルメニアの詩人サヤト・ノヴァの生涯をモチーフにした映像作品で、全編が詩とも言うべき美しい映像は見物である。滴る血、ざくろの汁。「目を開けて見る夢」という言葉に偽りはない。パラジャーノフやタルコフスキーなど、旧ソ連時代の巨匠の作品にはなぜこんなにも惹かれるのだろう。来月はタルコフスキーのDVDを購入する予定。

ルネ・ラルー『ファンタスティック・プラネット』を購入し、さっそく鑑賞してみた。(今月購入したDVDはこれと『ピクニック アット ハンギングロック』)うわ、これまたすごい作品だな…。73年のアニメーションです。巨大なドラーク人が支配する惑星イガムでドラーク人に拾われ、ペットとして育てられていた人間テールの反逆の物語。イガムの植生や生き物のデザインがすごい。気味が悪いが、圧倒される。青い肌、赤い眼のドラーク人の瞑想もまたすごいし…とにかくもういろいろな意味で「すごい」としか言えない作品。カルト映画として今も根強い人気がある理由がわかった気がした。印象的なシーンがいくつもあったので、これもまたそのうち見直す予定。

私がこの映画を見たいと思ったのは長野まゆみの影響です。彼女の好きな映画・おすすめな映画というのが昔紹介されていて、その中にこれが挙げられていました。私が中高生だった若い頃はネットには触れていなかったので、こうやって紙媒体のもので細々と情報を集めるしかなくて。でもその分、より出会いの喜びが大きかったのです。思えばエリセの「ミツバチのささやき」もノルシュテインの「話の話」もクエイ兄弟の「ストリート・オブ・クロコダイル」もヴィゴの「新学期 操行ゼロ」もドラノワの「寄宿舎」を知ったのも、全部長野まゆみからで。昔は憧れるだけで、東京に出てきてから大きいレンタルショップで一つ一つ探して見たり、そして今はこうしてDVDで購入することが可能になった。大人になるのはよいことだ。その反面何もかもざっくり消費するようになってしまって、……まあそれは、一概に否定されるべきことではないのだろうけど。


9月21日

忙しいというかオフラインのことで頭がいっぱいなので、日記を少しお休みしようかなと思ったり。でも「休む」宣言をするとその途端にまたガシガシ更新したくなる天の邪鬼な私なので、様子を見つつ書きたい時は書いて、疲れた時は無理には書かずしばらく放置でもいいかな…。

19日は啓祐堂にて「山本六三銅版画展ー銅版画挿絵と本の世界」を見る。全編に渡る球体に対する執着には大変惹かれつつ「眼球譚」のエロティシズムは私の好みではないかも…と今まで思っていたのだが、山本六三の挿絵を見て考えがかなり変わった。硬質な線で描かれた淫らな少女たちは、なんと美しいのだろう。また吉田一穂「白鳥」や塚本邦雄「感幻楽」をはじめ山本六三が挿絵を手がけた貴重な本がたくさん展示されていて、愛書家とは無縁の私も思わず熱心にケースの中を覗き込んでしまった。一貫した美意識に貫かれた山本六三の世界に触れることができて、幸せなひとときでした。久しぶりに訪れた啓祐堂では空中線書局から刊行されている未生響『Fanatic Amen』を購入。また会場で、2月の個展に引き続き画家の戸田勝久さまにお会いできました。思えばこれも、インターネットが結んでくれた不思議な縁です。

20日は湯島にある居酒屋「桃狼」へ。疲れていたのであまり飲む気分ではなかったのだが、「すごくおいしい」という言葉に釣られて出かけてしまった(私は「おいしい」という言葉に大変弱い)。実際行ってみれば、お値段も手頃で何もかもがおいしくて感動。豚串、サラダ、モツ煮、白海老の唐揚げ、泡プリン等々、我を忘れたように食べまくってしまった私。大学の近くだし、また飲みに行こうっと。よいお店を教えてもらいました。レトロな店内の内装も、大変かわいいです。


9月22日

そういえば、先日は中秋の名月だったのに日記で言及するのを忘れていました。トップページに月を飾っている、ルナティックサイトなのに…。あの日はよい月夜でしたね。家で、東逸子さんの絵が美しい『月光公園』をめくっていました。

今日はこれから某印刷工場を見学したあと、そのまま谷山浩子コンサートへ直行です。本日はオールリクエストデー。どんなセトリになるのかワクワク。今年の猫森集会は二日間チケットを買いました。Bプログラム初日にも参加して、日記に書きそびれていたのでざっとその覚え書きを。この日は栗コーダーカルテットがゲストでした。でもゲストが登場したのは後半からで、前半は浩子さんとAQさんの二人で演奏。前半は「物語」をテーマにした曲特集ということで、最初の「すずかけ通り三丁目」(これはあまんきみこさんの連作短編童話「くるまの色は空の色」をモチーフにしているとか。この作品はまだ読んだことがない)に始まり「お昼寝宮・お散歩宮」、そして幻想図書館シリーズの1〜3(雪の女王、アリス、アタゴオル)からの選曲でした。テーマ曲を選ぶというポリシーでセトリを組み立てたらしく、変な曲(谷山浩子には変な曲がいっぱいあるのだ)ではなくきれいめな曲ばかりのセトリ。前半は静か&きれいな曲ばかりが並ぶセトリでちょっと物足りないかも…とは思ったけど、でも好きな曲が結構多くこれはこれでうれしかったです。個人的には「夢の逆流」を初めて聴けたのがうれしかったです。このきれいなんだけど暗い情熱が籠っている曲が私はとても好きなのです。「激しい夢の濁流」「逆流する川」というイメージにとても惹かれます。後半は栗コーダーカルテットが登場。栗コーダーはさまざまな楽器を演奏していましたが、私はやっぱりソプラノ、アルト、テナー、バス(よりさらにもっと低いの。名前を忘れた)のリコーダー四重奏の音が一番好きです。最初に音を聴いた時は感動。「何これ、鳩時計の音みたい。なんて童話チックでかわいい音色なんだろう」と思いました。栗コーダーカルテット結成のエピソードやら楽器紹介やら、なごやかムードでの進行でした。こうして全体的に振り返ってみて、楽しいコンサートだったけど自分的にはセトリが今ひとつ好みではなかったかもなあ。なんとなく物足りなかったというか。ただあくまでこれは私の好みからすればということですけど。まあとにかく、今夜はオールリクエストに参加してきます。


9月23日

オールリクエストデー初日、行ってきました。いやもう、セトリがマニアックすぎてライトな谷山リスナーな私はついていけなかったよ(笑)。初期のアルバムとかあまり聴いていないもんなあ。ましてやB面でアルバム未収録の曲なんて全然わからない。でもまあ、そうしたマニアックさがオールリクエストデーの醍醐味なわけで。楽しかったです。笑えたのは「電車男&エルメスを探せ」で、エルメスたんに選ばれた方のリクエストが「ドッペル玄関」だったことでしょうか。エルメスたんなのにドッペル玄関…。この曲はAプロでも演奏されたそうで、谷山さんもAQさんも齋藤ネコさんものびのびと楽しそうに弾いていましたね。すごく盛り上がりました。オールリクエストデーでの演奏はやっぱり全体的に必死感が漂っていました。いつ以来の演奏?とか譜面がない!とか、そんなのばっかりだったので。でもそうした選曲をするプロセスがゲームチックで楽しいのですけどね。やっぱりマニア向けの日だなという印象は受けましたが、初めてオールリクエストデーに参加することができてとてもうれしかったです。来年も懐に余裕があれば、オールリクエスト+もう一日くらい行きたいものです。

「ロシア児童文学の世界」のカタログが届きました。資料として重宝しそう。私にとってはデザインのアイディアの宝庫。最近全く余裕がなくてウェブにおける創作活動はしていないけど、そのうちまた再開したいと思っています。画像や言葉、さらにそれをブラウザで表示させるためのインターフェイスのデザイン、そうしたトータルな編集行為はとても好きです。これからも、少しずつ何かを作り上げていきたいです。さて、今日はこれから銀座でお寿司&シャンソンというちょっと非日常なお出かけです。お招きしていただいたのです。今からドキドキしています。


9月25日

忙しくて泣きそうです…。やらないといけない事に対して時間が追いつかない。困ってます。シャンソンですが、とても楽しかったです。よい経験でした。昔の銀座の話しなど、もっともっと知りたいことがたくさんあります。それにしても最近は人と触れ合う大切さを実感しています。もう何度宣言しては挫折を繰り返してきたかわからないけど、いい加減脱・ヒッキーしたいです。(私の場合は精神的引きこもり。物理的に外に出ないとか、そういうことじゃないです。)人と対面で話すのが嫌とか、なるべく他人と関わりたくないとか、そういうのはやめたい。さて、明日から一泊二日で箱根へ行ってきます。といっても遊びに行くわけではないのですけど。解散時間が早いので、余裕があれば星の王子さまミュージアムくらいは見に行きたいなと思っているのだけど、やっぱり無理かなあ。一応地図だけはプリントアウトしてみました。


9月28日

箱根より帰還しました。疲労・睡眠不足でヘロヘロですが、いろいろと勉強になりました。今日は軽く用事を済ませるだけでよいのですが、明日はあれで明後日はそれと忙しさは続きます。まともに日記を書くことすらままならなくて申し訳ありません。最近はちょっとわけがあって本棚から大竹昭子さんの『東京山の手ハイカラ散歩』を引っ張り出してきて読み直しています。あとは学業がらみでWikiを使ったら便利なのかな?と思ってそちら方面の本を注文しました。届いたらざっと読んでみて、使えそうだったら利用するかも。あとジェーンで楽器ゴブランのバッグを引き取ってきました。かわいいです。楽器のモチーフは本当に好きで、ついつい買ってしまいます。特に好きなのはアコーディオンとヴァイオリン。昔出たヴァイオリンネックレスは愛用しまくってます。これつけてるとたまに「ヴァイオリン弾くのですか?」と言われますけど。すみません、妹二人は弾けるけど私は全く。。今期のアコーディオンリングは迷っているうちに予約完売してしまったのが無念。まあ、時間はかかるかもしれないけどそのうちご縁があれば出会えるでしょう。せっかく秋物をおろせそうな気候なのに、服にかまう余裕もなく疲労感が漂うパサパサ顔で駆けずり回っている毎日です。


9月29日

大竹昭子『東京山の手ハイカラ散歩』(平凡社)を再読。この本を手に取ったのは随分久しぶりだ。昔は鞄に入れてよく散歩に出かけていたものだが…。今回読み直したいと思ったきっかけはジョサイア・コンドルをはじめ近代日本の西洋建築について話しを聞く機会があったから。この本にコンドルのことが載っていたような気がする…と朧げな記憶をたよりに本を手に取ってみた。昔この本をよく見ていた時は、紹介されているお店の方ばかりに目が向いていた。しかし今の私の関心はむしろ東京の地理、そして建築の方にある。今まで、自分の中で何度か東京ブームがあった。永井荷風の日和下駄や田山花袋『東京の三十年』など、日本文学を通じて触れた東京。80年代の日野啓三や川本三郎の都市エッセイに影響され、鉱物都市の幻影ばかり追い求めていた時期もあった。今回は建物と歴史からの視点らしい。そういえば、東京大学内にはコンドル像があるとか。今度出かけて見てこようかと思う。大竹昭子の著作でとりわけ好きなのは『図鑑少年』と『眼の狩人』。須賀敦子をめぐる文章も好きだった。どういえば上手く伝わるのだろうか、大竹昭子というフィルターを通して感じる世界の心地よさ。文章が好きとか写真が好きということには還元できない、この人の視点が好きという気持ち。


9月30日

朝イチから渋谷パルコのロゴスギャラリーへ。印刷解体のイベント、活版印刷の文選・植字ライブを見る。遅刻していったため見にくい後方から10分ほどしか見ることができなかったのが残念。質問に対する答えから、職人気質を感じる。ライブの後はギャラリー内で買物を…と思ったのだけど、初日は人が多すぎてゆっくり見回るスペースがない。もう一度会期中に足を運ぼうと思う。とりあえず本のスペースを見回って、昭和40年に発行された印刷の教科書を購入する。古い印刷のことが知りたかったので、ちょうどよかった。家に帰ってきてから岩波ジュニア新書の『カラー版 本ができるまで』をパラパラめくり、最近見回った印刷工場のことをいろいろと考える。私が関心があるのはこうした本を作る工程よりはむしろ読者の方にあるのだが、しかし本とは書店に並んでいるものとしか考えていなくその前の工程が全く見えていなかった私にとっては最近の工場見学なり植字の件は考えさせられることが多い。本当は製本所や流通の部分も機会があれば見てみたい。つまるところ、結局辿り着くのは「本」なのである。自分がどういう切り口でやりたいのか、馬鹿な私は未だにさっぱり掴めていないのだけど。でも、たぶん本というのは変わらない。

印刷解体の後は「チャーリーとチョコレート工場」を見に映画館へ。父親との確執の話しは原作には出てきていなかったような…。『チョコレート工場の秘密』を読んだのは数年前(きっかけは恩田陸の『三月は深き紅の淵を』)なので、記憶が曖昧だ。気狂いじみたこの話しを映像化するにはティム・バートンはぴったりだと思う。とても楽しかったです。ウィリー・ワンカ役のジョニー・ディップがキモカワイイ。シルクハットに赤別珍ジャケットにおかっぱで挙動不審。映像というかセットや小物は思ってたよりもポップな感じでした。

 

 

 

 

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